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一般的には「自己破産をすると、すべての債務(借金)の返済義務がなくなる」と思われているでしょう。
しかし、実際には自己破産しても免責されずに残る債権があります。
たとえば、人に迷惑をかけて「損害賠償義務」を負っている場合、自己破産したからといっても免除されない可能性があるため要注意です。
「交通事故を起こしたとき」「会社のお金を横領したとき」「不倫したとき」、最近では「バカッターにより炎上をして企業が損害を被ったとき」などには損害賠償債務が発生します。
このような損害賠償は、全て自己破産しても免除されないのでしょうか?
以下では、自己破産しても免除されない損害賠償金ついて詳しく解説していきます。
目次
自己破産が裁判所に認められると、ほとんど全ての負債の支払いをしなくて良くなります。
債務の支払い義務が免除され、借金が0になることを「免責」と言います。
借金だけではなく、買掛金、リース債権、損害賠償請求権、立替金、家賃や通信費など、あらゆる債権が「免責」の対象になります。
ただし、自己破産には「免責の対象にならない債権」があります。
それが「非免責債権」です。
非免責債権については、裁判所から「免責決定」を出してもらったとしても支払い義務が残るので、手続き後に債権者から請求されたり取り立てを受けたりする可能性があります。
自己破産をしても「すべての負債が消滅するわけではない」ということです。
では、具体的にどういった負債が非免責債権として残るのでしょうか?
以下の段落でご説明します。
破産法253条1項は、以下のようなものを非免責債権と定めています。
非免責債権を負っている場合、自己破産をしても免責されない可能性があります。
(つまり、非免責債権が主な負債となって苦しんでいる場合、自己破産をしても状況を改善できません。)
国税、地方税、健康保険料や介護保険料、年金保険料や下水道料金、保育園代は自己破産しても免責されません。
一方、上水道料金や電気代、ガス代、通信料などは免責されます。
以下のような損害賠償請求権は免責されません
1は「悪意を持って加えた」不法行為です。生命や身体の被害に限定されていません。
ただし「悪意」と言えるくらい強く「他人を害する意図」が必要です。
2は「相手の生命や身体を傷つけた」の不法行為です。ただし「故意または重過失」で加えたことが必要で、通常の過失によっては成立しません。
これについては、見出し3.で詳しく説明します。
子どもの養育費、夫婦の婚姻費用などの扶養に関する権利は、自己破産しても免責されません。
個人事業主が従業員に給料支払い義務を負っている場合、自己破産をしても免責されません。
法人の場合には、破産すると法人自体が消滅するので、給与支払い義務も無くなります。
しかし、会社の財産の分配時に、給与の支払いは優先的に受けられます。詳しくは以下のコラムをご覧ください。
破産者が債権者隠しをしようとしてわざと債権者名簿に載せずに破産手続きを進めた場合、その債権者の債権については免責の対象になりません。
ただし、過失によってうっかり債権者を報告し忘れた場合には免責されます。
刑事事件を起こして罰金刑を受けている場合など、罰金の支払義務は自己破産をしても免責されません。
【非免責債権と免責不許可事由との違い】
自己破産で「免責を受けられない場合」としては「免責不許可事由がある場合」が有名です。
免責不許可事由とは、「ギャンブルや浪費による借金」「財産隠し・債権者隠し」など、該当すると免責が認められなくなる事情です。免責不許可事由があると裁判所が破産の終局場面で「免責を認めない(免責不許可)」決定を出します。
非免責債権と免責不許可事由の大きな違いは「免責を受けられるかどうか」です。非免責債権の場合「免責」自体は受けられます。たとえば、サラ金や住宅ローン、奨学金の債務は免責によって支払い義務がなくなりますが、非免責債権は破産後も支払わねばなりません。一方、免責不許可事由があると、免責そのものが認められないので、自己破産後も「すべての債務」が残ります。
参考:免責不許可事由とは?自己破産できない場合もある
さて、非免責債権の中でも、上記の2-2.で説明した「不法行為にもとづく損害賠償請求権」について説明します。
具体例を元に、損害賠償債務が免責されるかどうかみていきましょう。
交通事故は、物損事故か人身事故かで取扱いが異なります。
物損事故の場合、通常は免責の対象になります。
ただし「相手に嫌がらせをしてやろう」という明確な意図(悪意)を持って車に傷をつけたり、家の塀を壊したりした場合には、免責されない可能性があります。
人身事故の場合「故意」や「重過失」があったかどうかが問題です。
通常程度の過失による交通事故なら免責される可能性がありますが、飲酒運転や無免許運転、著しいスピード違反などの危険運転をしていた場合には、免責されない可能性が高くなります。
慰謝料とは、不法行為により被った精神的な損害に対する償い金のことです。
離婚時の慰謝料は、慰謝料の発生理由によって取扱いが異なります。
不倫や生活費不払い、モラハラなどの場合、「悪意」によって加えたかどうかが問題です。「相手を傷つけてやろう」という積極的な意図があれば免責されない可能性があります。
しかし、通常の不倫では「不倫相手に恋愛感情を持っている」から不倫するのであり「配偶者や相手の妻・夫を傷つけてやろう」という明確な意思を持っているわけではありません。
このようなケースでは通常免責されます。
ただし、「相手の家族を破壊してやろう、苦しめてやろう」などの明らかな加害意図を持って不倫をしていたケースであれば、免責されない可能性もあります。
また、DVで身体的な暴力を加えていた場合、故意による身体への不法行為となるので、免責の対象にはなりません。
これ以外にも、横領やバカッターなどで勤め先に損害を与え、会社から損害賠償請求をされた場合は、ケースごとに明確な「悪意」があったかどうかが免責の可否のポイントになります。
何らかの損害賠償債務を負っていて、自己破産により免責されるかどうか不安なときには、一度弁護士に相談してみましょう。
そもそも免責を受けられるのか、免責を受けられないならどうすれば良いのかなど、具体的なアドバイスをもらえるでしょう。
また、債務の取り立てを受けているときには、自己破産以外の債務整理方法(個人再生や任意整理)で債務を減額し、負担を減らすことで解決できるケースもあります。諦めずに専門家の力を頼ってください。